パトリック・ガロワ公開レッスン

日本は今頃ゴールデンウィーク真っ盛りでしょうか?パリは遅めの春休みが明けたものの5月1日がメーデー、8日が戦勝記念日という事で休日が多い一週間です。音楽院は文化庁の管轄なのでレッスンがありますが、学校は文科省という事で木曜日から土曜日までお休みとか・・・こんな休んでて勉強忘れちゃわないのでしょうか。(笑)

さて、前回の記事の続きでガロワの公開レッスンについて、ディティールが頭に残っているうちに書いておきたいと思います。まず還暦記念公演の翌日18日は東京音楽大学にて、19日は銀座山野楽器にて公開レッスンが行われ、両日とも通訳としてお手伝いをさせて頂きました。選曲は18日がタファネル:魔弾の射手による幻想曲、モーツァルト:フルート協奏曲第2番、ベーム:グランドポロネーズ。19日がタファネル:ミニヨンの主題によるファンタジー、CPE.バッハ:ハンブルガーソナタ、シューベルト:しぼめる花の主題による変奏曲でした。
素敵な青い花柄のシャツのガロワ先生

ガロワのレッスンでは、生徒がコンクールでも受けない限り、タファネルやベームを取り上げる事はあまりないので、個人的にもどんなアプローチをするのかとワクワクしていました。そこで彼がこだわっていたのは、やはり音色と音程感。音程の取り方が高い低いだけではなく、音色によって聞こえ方が変わる事、そして平均律でとるというよりも、何よりもその和音にふさわしい取り方。これは楽譜の見方がグンと変わるポイントになるのだと思います。また音楽を縦に垂直的(縦に)にとるのか、平行的(横に)にとるのか、前に進む音なのか、後ろに引っ張られる音なのか、音から音へ移り変わるその瞬間を捉えて欲しいと何度も言っていました。そしてそれらは、和音進行によって全く別のものになってしまう。やっぱりそこに来たかー!と思いましたが、和音進行とその和音の『はたらき』を知り、感じるかどうかで全くもって音楽は変わってきますから。ガロワのレッスンの第一声が、「そこの和音何だかわかる??」という切り口で始まるのには、彼の視点がここにあるのだと表しているようにも思います。そして「こういう音を作ってください」というのではなく、「自分でそれが美しいと思えるまで何度もトライしてみてください。」という場面がいくどもあり、無理に唇やポジションをいじるのでなく、耳から音を作っていく彼らしいニュートラルな方法、そしていま自分がどういるのかという、『己』を知る事の大事さ。そういった事を一生懸命伝えていたように思えました。


懐かしき東京音楽大学のBスタジオにて
それとレッスン中に何度か話に出ていた、高いポジションと低いポジションについて、詳しく説明がされなかったと思うのですが、わたし個人の解釈では、高いポジションは体を緊張させるのではなく息を吸った時肋骨を広げた時のような、バレリーナがすっと首を長くしているような状態で、低いポジションは、体の重心を三角の底辺においておくような感じだと思っています。ただ片方に引っ張られるのではなく、向かっていく逆方向に引っ張られるような引力と弾力をもつような。これはアレキサンダーテクニックでも、バレエのレッスンでも先生方がおっしゃる事がすごく似ていて、一番面白かったのは、アレキサンダー・テクニックの先生方が声を揃えて「あなたの先生はどうなってるの?!自然に体の全てが作用してる!」と。具体的な用法としては、公開レッスンでも言っていたように高音の時はポジションを下にとって、低音の時もしくはピアニッシモの時はポジションを上で取るというものです。門下生は入学してから徹底してこれをアンデルセンのエチュードop.60で仕込まれます。途中で頭がこんがらがって、考えなくなったらできたりもするのですが・・・(笑)
銀座山野楽器のジャム・スポットにて先生にマイクをアーン

またロマン派の作品にて気づかれた方も多いと思うのですが、序奏やテーマをこってりと歌わずに、シンプルにそして音楽の流れを意識して扱うように指示する場面も多く見られました。確かにガロワ本人を聴くと、テンポの速い遅いではなく、流れの緩急にポイントを置いているように思います。

そして、ガロワの話が長くなったのがやはりバロックや古典の解釈や装飾方法でした。まずCPE.バッハが影響を受けたとみられる文学運動のStrum und Drang シュトゥルム ウント ドラング(嵐と熱情)から影響を受けたロマン思考。そして奏法ではアクセントのつけ方、アポジャトゥーラやPorte de voix (椅音や前打音)、イネガルについて。そしてターンやトリルのつけ方にもこだわっていたかと思います。これらは、前情報なしに急に言われてもなかなか難しかったと思うのですが、受講者の皆さん耳で拾ってすぐについて来ていて、その吸収の速さに驚きました。

この日はピンクの花柄
もしご興味がある方は、ぜひクヴァンツのフルート奏法、CPE.バッハのクラヴィーア奏法、レオポルド・モーツァルトのヴァイオリン奏法などを読んでみてください♪ただこれらも、システマティックになってしまうと即興の良さがなくなってしまうので、記憶の引き出しに入れておいて、時々試してみると楽しいです!しかし、「今日僕の言った事は全て忘れて、自分の吹きたいものを見つけてください。」とガロワ本人が言っておりましたので。(笑)頭でっかちになるのではなく、インスピレーションを忘れずに、視点を変えてる事の大切さを伝えたかったのではないかと思いました。

この二日間を通して感じたのは、ガロワはいつまでも探求し続けていて、そして頭の中に100TBくらいのハードディスクが入っているのだと。なかなか説明が多かったので大丈夫かなと心配もあったのですが、聴講生の方々にもフルートのレッスンでここまで奏法に食い込んでくる事は少ないから、とても面白かったと言って頂けて、ほっと胸を撫で下ろしました。心残りは、会場に知り合いの方も多くいらしていたのですが、レッスンが押していたためご挨拶する事もできず、それが残念でした。どんな感想だったのかなーと^^ 

さて、私にとっても今月から一ヶ月半は、鬼講師として生徒の背中を押して試験用意をさせなければなりません!その後はまた日本公演で帰国致しますので、皆様どうぞお声おかけてくださいね!!

やっと春の来たパリより。
今井貴子

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