試験を受けるにあたって

フランスの音楽院で教え始めて早11年。フランスには日本の音楽教室的な私立の学校と、文化庁管轄の公立の音楽院の二つがあります。私が勤めるのは後者の方で、国の決めたカリキュラムの三本柱である「個人レッスン+ソルフェージュ+グループ授業+昇級試験必須」という音楽の総合教育をするのが公立の音楽院=コンセルヴァトワールと言われる機関。

さて、どこの音楽院も春から年度末までは進級試験の嵐でして・・・私の勤める音楽院も4月中旬から試験が始まり、ロレーヌ歌劇場のエキストラに通いつつ、スパルタレッスンをしにTGVでパリに戻るというハードな4月〜5月を過ごしていました。

音楽院の試験に私たち講師が何をするのかというと
1.課題曲を決める
2.ピアニストと審査員を探す
3. ピアノとの合わせ日のオーガナイズ
4.7回分のレッスン+2回のピアノ合わせ

というのが、どこの音楽院でもスタンダード。フランスでは必ず外部の審査員を呼び、学長と審査員の二人が進級を決めるという、生徒にとっても講師にとっても、有益で健康的なシステムなのです。勿論講師自身もその場にいて、演奏へのコメントはしますが、審査には入りません。

私も審査員をすることもありますし、なぜかピアノ伴奏をすることもあるのですが(笑)審査員や講師側視点の試験への思いを少し書いてみようかなと思います。

選曲について
自由曲がある場合:自分の良さが出る曲、勉強しておくべき曲、挑戦してみたい曲そして、数ヶ月勉強をして演奏する以外にも得るものがある曲を把握しておくこと。

例えばフランスではあまりオペラのファンタジーものを試験で演奏する人は少ないのです。レッスンやコンクールに用に魔弾やミニヨンをやっておくということはありますが、それ以外はあまり人気もない様子。変奏が続くのでソーセージみたい・・・と言われることも。多様性が見せづらいという点はありますよね。

そしてメロディラインは美しいけれど、和声の構成があまりに陳腐で(シンプルとは違う)音楽の広がりが出ない曲は避けてみる。そして楽曲のアナリーゼを自分なりにしておくこと。生徒のピアノ伴奏をしていて思うのですが、室内楽として聞こえない作品は落とし穴になりやすい。例えばヴィヴァルディの和声進行はシンプルですが、必ず音楽の方向がわかる様になっていたり、この和音のこの音にフルートを絡ませると最高!というポイントが必ずあるのです。あと、バッハなどは全部の音を弾かずとも、ポリフォニーの中の一声をピアノで弾くだけで、生徒が「うわ!どうなってるか見えてきた!」というほど。

現代曲がある場合。「現代曲を演奏する。」という目的ではなく、そこに自分の音楽を見出せるものをチョイスすること。これは私自身の経験なのですが、やっておくべき作品だからとチョイスしたのはいいけれど、叫んだりすることが苦手な性格ゆえ・・・「良く吹けてるけれど、あんまりキャラに合ってなかったんじゃないか?練習辛くなかった?」とコメントを頂いたことも。

試験の練習はいつもの練習。練習のプランニングを立てておくこと。そしていつも通りの練習にいつも誰かに聞かせられるようなクオリティを保っておくこと。プログラム順に練習すること。通す練習を何度もすること。もしくは試演会などで人に聞いてもらうこと。

審査員は音楽を聴きに来ているので、ジャッジされてると自分に余計なプレッシャーをかけないこと。そして自分の耳と他人に耳は違うということを理解しておく。両方を信じていいと思うし、両方を疑っていいと思う。ただ練習の時点から、自分を客観的に見れるようにしておくことはとても大切。もし試験の結果がうまくいかなかったらまた次年度頑張ればいいのです。試験は自分の今のいる状態を分かるためのもので、合否という形ではない。

試験だから緊張して云々という話は、実際は自分と相手(審査員)とそれを聞く観客の全ての空気だから、相互作用でもある。演奏する側がガチガチだと審査する方も緊張したりします。どちらかというと「怖がらなくていいから!食べないから!息吸って!」と思ってるのだけど、立場上何も言えないので、空気が緊張するという方向に行くことも。

私はガロワが試験の時にやってくれたように、控え室に一人ずつ迎えに行って、廊下で一緒に呼吸して目を見ながら「大丈夫!できること全部やっておいで!」と背中をポンポンと叩くのですが、「失敗することを恐れるよりもリスクを負っても音楽をすること」に集中してほしいと思っています。そしてリスクを負えるような練習をしておくこと。

人目を避けずに、ピアニストにも審査員にもちゃんと挨拶をして、自分と向き合うこと。敵もいなければ、意地悪な人もいない。審査員は、どんな演奏するんだろうな!とワクワクして待ってることが多いのですから!自分から逃げないこと。 コンサートに誰かえらい人が来てるんだ程度に思って演奏に没頭すること。音楽に生きること。

自分で書いてみて、練習したくなってきましたが(笑) 日本では帰国時にスポットレッスンをしているので、試験や本番の不安を抱える方、基礎のレッスンを見直したい方、是非ホームページよりご連絡ください^^

それでは、本日はこれくらいでボンニュイ!
今井貴子 フルーティストTakako IMAI Flutist
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