どっぷりフレンチスクール

パリは秋まっしぐら。ここ数日は秋雨前線が来ているのか、しとしとと雨が降り続け、気温もどんどん下がっています。帰りが遅い日は、レザーのジャケットにウールのカーディガン、マフラーとがっちり防寒着。なんてたって１０度を切りますから…。あぁぁぁ来る、パリの寒くて長い冬が来る！！と人々は憂鬱そうです。休み以外は憂鬱そうなのがパリジャン、パリジェンヌなのですがねー。

私もクリスマスは何処へ行こうかなと、既に冬のバカンスの事を考えつつも、真面目に生徒の試験曲を選んでいます。今、代講している音楽院は年に二回の試験があり、第一回は12月にどの学年もピアノと一曲演奏せねばならず、その後、各レベルの最終学年だけ6月に行われるパリ市全体の進級試験を受けるようです。多くの音楽院は、年内は発表会のみで、年末に各レベルの最終学年だけ試験があるのですが、このシステムだと試験の経験も、ピアノと演奏する経験も増えないので、学長自ら試験を増やしたようです。

その成果もあってか（勿論教授陣も素晴らしいのですが！）、生徒たちがピアノと演奏する事に慣れていて、レッスン中に私が下手なピアノで伴奏しても、すぐに調性や和音も聞きとってくれます。楽譜上で理解していても、やはり耳の中で次の和音をならしておけないと、音楽の流れが出来てこないので、こういった力が１０代のうちにしっかりついていると、演奏の幅がどんどん広がっていくのでしょうね！

このクラスでは、お休みされている先生の意思を引き継いで、ベースはモイーズの480の技術練習を使いつつ、ソノリテを知らない生徒が多いので、自分の楽譜を持っていって、ちょっと新しいものを発見してもらっています。

しかし、一つ悩んでいるのが、フルートの先生の間でもよく話題になるビブラートの練習。先月日本に帰ったときに、恩師野口龍先生のお宅に伺ったのですが、そのときも、ビブラートって自然に出来る人は出来るんだよね…という話になり、私自身も練習して会得したわけではなかったので、今ひとつ、よい説明の方法が見つからず、困っています。ゴールウェイのように♩に２回、３回、４回波を作って練習するという方法もありますけど、その方法だけでは、リスクが大きい気がするので…ネットで検索していたところ、手元にないモイーズのエチュードが出来てきました。その名も、How I stayed in shape 「いかにして維持するか」。

日本版では故・増永弘昭氏が翻訳されたものがシンフォニアから出版されているようです。

http://www.k3.dion.ne.jp/~masunaga/

増永氏のあとがきをリンクさせて頂きたかったのですが、文字化けしてしまうので…キャッシュをした後にコピー&ペーストさせて頂きました。

アンブシューア、イントネーション、ヴィブラートの練習
マルセル・モイーズ 著　増永弘昭 訳　

あとがき
マルセル・モイーズはフルートと言う楽器を超えた伝説的巨匠で、アメリカに渡ってからも フルート以外の多くの楽器奏者たちに絶大な芸術的影響を与え、タファネルやゴーベールの後継者とし てフレンチ・スクールの伝統を直接受け継ぎました。
本書の皮肉たっぷりの文章からは、音楽に対する安易な態度に憤懣やるかたない気持ちをおさえかね ている様子がうかがえ、モイーズの希有とも言える人間性と相俟って一種独特な雰囲気さえ感じとれます。ですから、今日のものに比べて音程と響きが一致していない当時の楽器にも我慢できなかったにちが いありません。こういう困難を克服しようとする努力が単に技術練習に留まらない、音楽的に高度な課題を書かせたとも言えるでしょう。つまり、本書は音楽を豊かにすることを最終目的としてフルー ト演奏上の技術的側面を改善し、維持する方法を提案しているのです。モイーズは下顎で音程を補正す るようにと述べています。しかし音域やオクターブを変えることを目的として下顎を使うようにとは 書いていません。跳躍を多く含む本書の課題を練習する時にはこの点に留意すべきでしょう。
モイーズは、ヴィブラートに関して特に頁を割いています。当時は（そして今日でも）ドイツ語でDauervibratoと呼ばれる、同じ速さと深さを持つワウワウというようなヴィブラート がオーケストラプレイヤーたちを中心に平気で用いられていました。モイーズはこの種のヴィブラート を特に厳しく非難し、同時にいわゆるチリメン・ヴィブラートについても滑稽であるとさえ考えています。
2001年8月

色々な生徒を対象とした新しい教則本も沢山出ていますが、教える方としては、やっぱりモイーズ監修のメトード、アルテス、タファネル&ゴーベールというのはテッパンなんですよね。それに演奏するのと、教えるのでは全くスキルが違うので、まだまだ勉強です。増永氏のおっしゃる、皮肉ったぷりの文章というのが気になるので、がんばってフランス語で読みたいと思います。